Teardrops of the Tiger

勇気が出るブログ

柴犬の肛門

子供の頃に住んでいた家の近くに、柴犬を飼っている家があった。夕方になると飼い主のおじさんが、その犬を散歩に連れて行くのが日課だった。時々私も一緒に犬の散歩について行くようになった。犬は嬉しい時には尻尾を振ること、お腹を見せて寝転んだ時はお腹を撫でてあげると犬は喜ぶこと、犬がご飯を食べている時には触らないほうが良いということ……おじさんは、犬のことをいろいろ教えてくれた。

 

毎日のように一緒に散歩に行く内に、おじさんは私にもリードを持たせてくれるようになった。当時はリードといっても洒落たものはなく、綱に持ち手が輪になっただけのものだった。その輪っかに私が手を掛けた途端、犬は走り出した。私はなんとか綱を離さずにいるのがやっとだった。

 

どんどん前を歩く柴犬。引っ張られて歩く私。子供だった私の目線からは、犬の後ろ姿しか見えない。くるりと丸まって上を向いたふさふさの尻尾と後ろ足。ふと、尻尾の下でむき出しになっている黒い肛門が気になった。犬は肛門を丸出しで恥ずかしくないのだろうか。そう思ったら余計に肛門が気になって仕方なくなってきた。やがて私の目には肛門しか見えなくなった。

 

今から数年前のことである。私がテレビを見ていると、犬の肛門隠しというグッズが画面に映った。リング状のものに小さな黒い三角形をしたものがついている。「犬だって肛門を見られて恥ずかしいのよ」とグッズを紹介する犬好きのセレブっぽいアメリカ人女性は言った。そのグッズの輪の部分を犬の尻尾に通して根元のお尻のところまで持っていく。すると黒い三角形の部分が、ちょうど肛門のところにきて隠すことができるという仕組みだった。尻尾を利用するとは素晴らしい発想力だ。用を足そうと犬が中腰の姿勢でいきむときは尻尾も上がるので、うまい具合に三角形の部分は肛門から離れ、出てくるものの邪魔になることはない。しかし、丸いものを隠すのになぜ三角形なのか。しかも肛門が隠れきるかどうかの微妙な大きさである。犬が無邪気に尻尾を振って歩き回ると、黒い三角形からチラチラと肛門がのぞく。チラリズムというか、これでは余計に肛門が気になって仕方がない。

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今でこそ、飼い犬に服を着せるのは当たり前になっている。靴を履かせられたり、リュックを背負わせられたり、雨の日にはレインコートを着せられて散歩している犬もいる。たまに服を着せられていない犬を見ると、「あらっ、裸だわ」という感覚に一瞬なってしまう。裸が当たり前だった時代には思いもよらなかった感覚である。

 

子供の頃に毎日のように一緒に散歩に行き、私に肛門を見られていた柴犬。私が小学校に行くようになった頃、その柴犬も亡くなってしまった。私にあれだけまじまじと肛門を見られている中、犬はひょいと片足を上げて電柱におしっこを引っかけたり、後ろ足で明後日の方向に土をまき散らしたりしていた。きっと恥ずかしくもなかったのであろう。